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長引く痛みの原因は、血管が9割

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奥野先生の日本語原稿 「エコーを使った痛みの血流評価」 中編




異常血管と痛み?

血管には正常な血管と異常な血管が存在する3)。異常な血管はがんでも生じるし、糖尿病性網膜症でも生じるし、炎症でも生じる。お母さんのお腹の中、発生段階でできる血管は全て役に立つ正常な血管だ。綺麗な網目状の構造で秩序が整っている(図5a)。これに対して病気でできる血管はほとんど例外なく異常な血管だと考えてもらっていい。顕微鏡で観察すると、無秩序に増殖している(図5b)。もう一つ重要な事実は、異常な血管が生じると、それに伴走する神経線維が生じることである。慢性的な痛みを発している組織では小血管の異常な増殖と、その血管の周りに痛みに関係するとされる神経線維(具体的にはprotein gene product(PGP)9.5, calcitonin gene-related peptide(CGRP), substance Pなどで免疫染色される神経線維)が増加することが様々な研究者から報告されてきた。組織としては肩関節周囲炎における関節包4)、腰椎椎間関節5)、Anterior knee painにおける膝蓋下脂肪体6)、有痛性腱板断裂における肩峰下滑液包7)、変形性関節症における滑膜8)、アキレス腱炎における腱実質9)、顎関節症の関節包10)などが含まれる。慢性疼痛の生じている組織には血管が増えており、痛みに関係する神経もそれに沿って増えるという報告である。

奥野先生の日本語原稿 「エコーを使った痛みの血流評価」 中編


図6は、階段昇降時および安静時の内側膝痛を訴えた60歳の女性の患者である。エコーでは図6bのように圧痛部に滑膜肥厚を認め、同部位にドップラ信号を認めた。血管撮影では図6dのように増殖した滑膜に一致して異常な血管を認めた。塞栓物質を投与して数分後に圧痛は軽減している。現在治療から1年以上経過しているが疼痛は再発しておらず、階段昇降にも支障はない。

奥野先生の日本語原稿 「エコーを使った痛みの血流評価」 中編


除痛のメカニズムと痛みのメカニズム

なぜ痛みが取れるのかというメカニズムについて考察したい。私たちは異常な血管の流れを遮断することで除痛が得られていると考えている。私たちの塞栓治療で除痛の得られるタイミングは2つある。1つは塞栓直後(数分後)である。もう1つは塞栓治療からしばらく経過したとき(1、2ヶ月後が多い)にさらなる除痛が得られることがある。前者の除痛は、異常な血管の流れを遮断したことで得られている可能性がある。もちろん流入血管が閉塞したことによる組織内圧の低下もメカニズムとして考えられるだろう。しかし前述のように、血管の周囲に疼痛に関係する神経線維が増殖することを踏まえると、血液が流れていること自体が痛みを発しているとも考えることができる。(1、2ヶ月後の除痛には炎症の改善が関わっていることも考えている。)

「異常血管に血液が流れていること自体が痛い」とすると、思い当たるのは古傷の痛みや夜間痛である。冷気にさらされると昔痛めた部位が疼く。あるいは夜になって肩がジンジンと痛む。今までこれらの痛みの発生機序は十分には解明されていなかった。私は異常な血管への血流量の変化によって説明がつくと考えている。

外的環境の変化や運動量によって皮膚や筋肉の血流量は調節され大きく変化する。環境温が上昇すれば皮膚への血流は数倍に増えるし11)、運動によって筋肉への血流量は最大で20〜30倍に増加する12)。反対に低温環境や夜間の不動状態では皮膚や筋肉への血液量は極端に減ると考えられる。これは正常な血管が血流量の調節機構を有するからである。一方で異常な血管は調節機構を持ち合わせていないことが予想される。冷気や不動による皮膚や筋肉への血流の低下→相対的に異常血管への血流が増加→血管の周囲神経からの痛み信号の増加というのがこれらの痛みのメカニズムではなかろうか。もちろんこれは憶測の域を出ない。しかし私の今までの塞栓治療の経験上、夜間痛や安静時痛、古傷の痛みというのは、非常に高頻度で異常血管が見つかり、そして塞栓治療の直後に良好な除痛が得られている2)というのが私のひとつの論拠である。


異常血管は役に立たない?

読者の方の中には「異常な血管といえども何か役割があって増えているのではないの?」という疑問が生じるかもしれない。塞栓などしてホントに良いの?と。異常血管の性質の一つは「無秩序な増殖」であった。実はもう一つの特徴として、動静脈短絡というものを多く含むことが挙げられる。正常な血管網では動脈→毛細血管(ここで血液がゆっくりと流れ、酸素や栄養素を交換する)→静脈となるが、異常血管では毛細血管を経由せず動脈から静脈に直接流入する血管(これを動静脈短絡と呼ぶ)が多い。動静脈短絡があると「血液が流れているが、栄養や酸素の供給はしていない」ことになる。塞栓治療はこれらの動静脈短絡を減少させ、正常な血管分布に近づかせているとも考えられる(図7a-g)。これは今後の基礎的な実験が必要である。


奥野先生の日本語原稿 「エコーを使った痛みの血流評価」 中編

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